声優のトレーニングといえば、発声や滑舌がありますが、それらの応用として学校や養成所では「外郎売」を教わることがあります。
この外郎売を普通に読んでいてももちろんトレーニングにはなりますが、なかには練習が続かなくなったり効果を実感できなかった人も多いかもしれません。
昔の僕も、みなさんと同じように声優学校や養成所で学んだものの、どう取り組んでいいのかわからず、恥ずかしながらその後は外郎売の内容すら忘れかけていたほどです。
そんなとき、ある練習方法を教わったことで、以降、およそ1年間は外郎売をほぼ毎日練習するようになりました。
その甲斐あって、発声・滑舌だけでなく、音域や抑揚、安定感、表現力などを身につけることが出来たと実感していて、結果として審査に合格し運よくプロダクションに所属することもできました。
もちろん、全文を諳(そら)んじることができるようなったのは言うまでもありません。
今回は、そんな筆者である僕自身の経験と実績に基づいた「外郎売練習おすすめ6パターン」を紹介します。
正直あまり教えたくはないですが、控えめに言ってもかなり合理的で飽きない方法なのでぜひ実践してみてください。
外郎売6パターンの練習法
「外郎売」を1回読むとなると、スラスラいけば10〜15分程度と言ったところでしょうか?
10×6パターンでおおよそ1時間くらいのトレーニングになると思いますが、余裕がなければ自分のペースで各パターン日替わりで取り入れるのもおすすめです。
通常読み
まずは、いつもの自然な声で外郎売を読みます。
外郎売をはじめて扱う人も多いと思うので、まずは滞りなくスラスラと暗唱できることを目標にしましょう。
ボイスレコーダーなどで録音し、聞き取りにくい部分や滑舌の甘い箇所をチェックしてみるのもおすすめです。
また、その日の声の調子などを確認するウォームアップを目的として行うのもいいかもしれませんね。
高音読み
こちらは、高音域を広げるだけでなく、声優の発声を身につける上でも感覚が掴みやすい方法ですね。
はじめから終わりまで、自分が出せる限界の高さで声を出しながら読んでみてください。
もちろん裏声になってしまっても大丈夫ですが、このときに顎を少し引いて頭のてっぺんへ声が抜けていくイメージを意識してみましょう。
発声が身につくと鼻腔が響くようになり、マイクに乗りやすい声になります。
チェック方法は、鼻をつまんだときに声が微妙に変化したらOKです。
低音読み
高い声とは反対に、今度は限界まで落とした低い声で読みます。
普段の発声で声帯が締まりがちな人にはかなりおすすめで、いわゆる”作った声”を出すクセも治しやすい方法です。
発声時は顎をしっかりと下げるのがポイントで、ブレスが出て声帯が開きやすくなることで逆に高い声も楽に出せるメリットがありますね。
一息読み
4つ目は、一息で文章の限界まで読むトレーニングですね。
声が語尾にかけて弱くなったりヨレてしまうといった課題克服におすすめで、安定感やブレスのコントロールを身につける上で役立ちます。
句読点やキリの良いセンテンスで終わることなくただひたすら読めるところまで挑戦してみてください。
苦しくなってくるとどうしても速くなりがちですが、読むスピードやボリュームはできる限り一定に保つことも忘れずに意識してください。
体調の悪いときや貧血気味な人にとっては過酷なトレーニングなので、必ず休憩を取りながら無理せず行いましょう。
お経読み
次は、よくお坊さんがお経を唱えるのと同じイメージで外郎売を読みます。
ポイントは、あえて抑揚や声色をつけない平板読みで間をあけずに常に一定の声を意識しましょう。
- 平板読み (抑揚をつけない)
- 間を空けない
- 音程・音量・速度は一定
少し難しいですが、これら3点を意識してみてください。
実際、毎日お経を唱えるお坊さんはすごく響きの良い安定した声ですよね。
同じ要領で、行う前はリラックスをして、余計なことは考えずにひたすら声に意識を集中させましょう。
集中力を鍛えるだけでなく、喋りのクセを取り除くのにもおすすめの方法です。
売り手読み
「外郎売」の意味を紐解けばなんとなく気づくかと思いますが、これは薬売りの口上です。
最後は、「多くの聴衆に外郎を売る!」という売り子の意識で読むパターンです。
ポイントは、一言一句意味をしっかり理解した上で、目の前の人をイメージしながら外郎の魅力を伝えることです。
何気なく読むのと、意味を理解して相手に聞いてほしくて伝えるのでは、声も話し方もまるで変わるはずです。
そのため、想像力や表現力を養う上でもかなりおすすめの練習ですね。
これまでの5つのパターンから磨いたものを実践できる意味合いもあるので、一番最後にこちらに取り掛かるのがおすすめです。
「外郎売」現代語訳
以下、外郎売の現代語訳を記載しています。
(※原文途中の「ひとつへぎへぎに(一っぺぎへぎに)〜」の訳は早口言葉になるので中略。)
私の店の主人はと申しますと、お集まりの皆様の中にはすでに御存知の方もおいでかとは思いますが、お江戸日本橋(東京)を起点としますと、東海道を二十里、二十里と言われてもぴんときませんね。一里は三十六町で約3.9キロですから、80キロほどの距離になりますが、夜が明ける前に出発して、日が暮れないうちに宿に着くように一日に10時間程かけて十里、40キロ程を歩きますと、江戸から小田原は丸々二日。どんどん歩いていただいて、上方(京都)方面へおいでになった 相模国(神奈川県)小田原の一色町を過ぎて、青物町をさらに西へ行った所にございます、欄干橋の虎屋の藤右衛門と申す者でございます。実は藤右衛門は昔の名前でございまして、現在は髪を剃り、お和尚さんのような姿になって円斎と名乗っております。
さて、正月は元日の朝から大晦日まで、一年中いつでも皆様のお手に取っていただけるようにしておりますこの薬についてお話をさせていただきます。
その昔、「ちん」という外国から日本へおいでになった「外郎」という方が、帝へお目に掛かる機会がありまして、その時の話なのですが、外郎さんはこの薬を自分の冠り物の中に大事にしまっておいて、使う時にだけ一粒づつ冠り物の隙間から取り出したものですから、帝は、「透頂香」という名前はどうだろうかと仰って下さったのです。「透く」「頂」「香」という字を書くのですが、これで「とうちんこう」と読む訳でございます。
このようにして名前が付いたこの薬ですが、今では想像以上に世の中に広まりまして、方々に偽看板まで出る始末です。イヤハヤ、小田原で作っているこの薬を、灰俵だとか、さん俵だとか、炭俵だとか、効能などもまず出鱈目に色々と書かれているようですが、「外郎」さんの名前を薬の名前にして、平仮名で「ういろう」としましたのは私どもの店主でして、平仮名で「ういろう」と書いた物だけが本物でございます。
さて、お集まりの皆様の中で、熱海か塔ノ沢へ湯治にいらっしゃるか、または、お伊勢参りの際に、私どもの店へお寄りになられる時には間違っても違う店に入ったりしないようお気を付けください。京都方面へ向かう方から見ると右側で、東京方面へ向かわれる方からすると左側の建物です。八方が八棟で、正面から見ると三棟の美しい宮殿かと見紛うような「玉堂造り」でございます。破風には、帝から使うことのお許しをいただいた菊に桐の薹の御紋が付いておりまして、それほどに由緒、来歴の正しい店で作られた薬なのでございます。
さてさて、先程から私どもの店がいかに素晴らしいかの自慢ばかり申しておりまして、「ういろう」を御存知ない方にとっては、胡椒を丸呑みしたのでは辛さが全く分からないように、また、ぐっすり寝こんで何も気付かなかったと言うたとえの「白川夜船」のようでございましょうから、一粒、ちょっと口に入れてみまして、その効果の程を確かめてお見せすることにいたしましょう。
先ず、このようにこの薬を一粒舌の上に乗せ、やおらお腹の中に飲み込みますと、イヤもう、何と申しましょうか、“マジ” お腹の中がすっきりしまして、気持ちのよい爽やかな風が喉から出て来る感じでございます。口の中も涼しい感じがしてまいります。
魚や鳥や茸、はたまた麺類の食い合わせで起こる不調から、どのような病にも効果てきめん。その効き目の速さと言ったら、まさに「神」の領域でございます。
さて、何と言ってもこの薬の素晴らしい効き目の第一は、舌がよく回るようになることで、くるくると良く回る「銭独楽」でさえ、「こりゃもうかなわぬ」と裸足で逃げ出してしまう程の勢いでございます。ご覧ください、ひょいっと舌が回り出すと、もうじっとしてはいられません。弓矢で攻めても盾で止めようとしても無理な話でございます。「矢でも鉄砲でも持ってこい」でございます。その勢いは止められません。それそれそれ、舌が回って来ます。回って来ました。
ちょっと知識をひけらかすことになってしまって恐縮ですが、「あ・わ・や」は「喉音」でございます。「さ・た・ら・な」は「舌音」で、「か」は「牙音」、「さ」は「歯音 」、「は(ファ)・ま」の二つは唇の加減で声を出す「唇音」でございますが、この薬を飲みますと、言葉を発するのも軽やかに、聞き取りやすくなってまいります。それ「あかさたなはまやらわ」「おこそとのほもよろを」。
(中略)
きょう、ここに、羽目を外してお集まりくださった皆様方へ、ぜひこの薬をお手に取っていただきたいと思います。商売ですから売らなければならなりませんので、ありたけの気力を尽くして申し上げます。瑠璃のように清浄な場所と称される、東方浄瑠璃世界にお住まいになられ、衆生の病や苦しみを救われる薬師如来様。医薬の仏である薬師如来様。どうか薬師如来様もこの薬の素晴らしさをとくとご覧ください。
薬師如来様も、お集まりの皆様も敬って申し上げます。「ういろう」をどうぞお買い求めくださいませ。
引用:『みんなの知識 ちょっと便利帳』https://www.benricho.org/kotoba_lesson/Uirouri/gendaigoiyaku.html
まとめ
- 通常読み:ナチュラルトーン
- 高音読み:鼻腔を響かせる
- 低音読み:喉を開く
- 一息読み:ブレスコントロール
- お経読み:声に集中する
- 売り手読み:相手に魅力を伝える
ここで紹介したように、外郎売も工夫次第で様々な練習ができたりします。
また、練習する際は改善すべきポイントを明確にしておくとより早く効果が表れるのではないでしょうか?
この他にも、いろいろな練習方法を紹介しているのでぜひ試してみてくださいね。
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