コロナウイルスの影響により、2021年10月に公開延期となった『映画 燃えよ剣』。
すでにキャストが発表され注目を集めていますが、原作である小説は長きにわたり読者に支持されてきた司馬遼太郎の不朽の名作です。
今回は、この作品にはじめて触れる方に向けて、実際に原作を読んだ感想をまとめたので、気になる方はぜひ参考にしていただければと思います!
本作品が好きな方も、はじめて知った方も、映画公開までに原作についてチェックしてみてはいかがでしょうか?
『燃えよ剣』ってどんな作品?
そもそも『燃えよ剣』ってどんな作品?と思う人もいるのではないでしょうか?
まずは、話題の映画情報とあわせてご紹介していきます!
【映画】
土方歳三:岡田准一
お雪:柴咲コウ
近藤勇:鈴木亮平
沖田総司:山田涼介
(他)
公開:2020年5月22日(金)→2021年10月予定
監督:原田眞人
配給:東宝、アスミック・エース
【小説】
著者:司馬遼太郎
ジャンル:歴史小説
巻数:2巻(上・下/新潮文庫)
ページ数:各巻で約500ページ程度
『燃えよ剣』は、幕末における新選組副長・土方歳三の生涯を描いた歴史小説で、醍醐味ともいえる緊迫した戦闘シーンはもちろん、内部の人間模様や思惑などが色濃く表現された作品です。
映画のキャッチフレーズである「時代を追うな。夢を追え。」が印象的ですね。
ちなみに、著者の司馬遼太郎さんは、『燃えよ剣』の他にも『竜馬がゆく』『国盗り物語』などを手がけ、これまでに直木賞や菊池寛賞などを受賞。
独自の歴史解釈は”司馬史観”と呼ばれ世間から非常に高い評価を得ている小説家です。
そんな歴史小説の巨匠による長編作を、まずは簡単なあらすじからご紹介していきます。
あらすじ
武州多摩郡石田村(現:東京都日野市)で百姓として生まれ育った歳三は小さい頃から”バラガキのトシ”と呼ばれ荒く気の強い子供で有名でした。
そんな性格や生まれも相まって、将来は百姓なんかよりも武士になりたいという憧れが…。
若くして天然理心流の門を叩き近藤勇をはじめ、のちに隊の中枢を担う同士たちと出会います。
その後、仲間たちと京都で「新選組」を結成。
”鬼の副長”として隊をまとめ上げ、のちに有名な「池田屋事件」をはじめ「禁門の変」など、倒幕勢力を相手に数多の戦闘に身を投じていきます…。
上巻は、寄せ集めだった男たちを、最強の剣客集団へと作り上げていくまで。
下巻は、戊辰戦争における新選組のその後と箱館戦争の歳三の行く末を描いています。
『燃えよ剣』レビュー
以下で、読んだ感想や見どころを中心にこの小説の魅力をご紹介していきます!
できるだけ内容は伏せつつ書いたつもりですが、多少触れてしまう部分もあるので、ネタバレが気になる方は見ないことをおすすめします。笑
はじめて読んだ感想
僕がこの小説を買って初めて読んだのは10年以上昔で高校生の頃でした。
当時、高校生だった僕が読み終わって強く感じたことは「土方歳三が格好いい」です!笑
稚拙な感想かもしれませんが、新選組って土方歳三なしでは語れないんですよね。
幕末史においても新選組を支えた重要な人物といえ、今の常識や価値観では考えられないほど士道を重んじ信念にまっすぐですが、時折見せる情や弱さなど、それほど作者の描く歳三が儚くも魅力的でした。
その後、改めて読み返していくごとに、作者の狙い(演出)が少しずつ理解できるようになる楽しさもあり、同じ新選組を扱ったものでもこの作品にしかない魅力を感じることができました。
とはいえ、これだけでは小説の良さが伝わりにくいと思うので、以下でここを見てほしい!というポイントを詳しく紹介します!
見どころ!
『燃えよ剣』の見どころは、各章で挙げればキリがないですが。
芹澤鴨との対立を描いた「士道」
新選組がもっとも活躍する「池田屋」
隊内に歪みが生まれはじめる「鳥羽伏見の戦い」
個人的にはこの3つが特に見どころで、新選組の衰退が色濃く反映された事件だと思います。
ですが、物語の流れを通して印象的だったのが土方歳三という人物が変化していったところです。
もちろん、外見に関しては百姓の男が浅葱色の陣羽織を纏って最後は士官になるということかもしれません。
ですが、歳三の内面の変化は自身や周りに少なからず影響与えていきます。
「厭。あきれています。わたくしはむかし、歳とよんでくれ、といったころの歳三さんに逢いにきたつもりでございましたのに、ここに待っていたのは、新選組副長土方歳三という途方もないばけものでした。」
引用:『燃えよ剣(上)』P.283(第87刷) 著:司馬遼太郎 出版:新潮文庫
旧知の仲である佐絵が、再会を果たした歳三に言ったセリフです。
武州の百姓だった荒くれ者が戦乱の都へ赴き、血に染まっていくように、自身の心も変わっていく様はとても印象的でした。
そして物語の後半、最期の戦いに向かう歳三の心境は京都のそれとはまるで違うものに変わっていて、どこまでも時代に抗ってきた男の諦観した様子が描かれています。
歳三は、もはや自分を、なま身の自分ではなく劇中の人物として観察する余裕がうまれはじめている。
いや余裕というものではなく、いま過去を観察している歳三は、歳三のなかからあらたに誕生した別の人物かもしれなかった。
引用:『燃えよ剣(下)』P.434-435(第84刷) 著:司馬遼太郎 出版:新潮文庫
最後はとても清々しく、武士に憧れた男の武士らしい生き様が描かれているのがなんとも感動的でした!
司馬遼太郎さんは、この作品を書くにあたって文献を可能な限り集め、人から伝え聞いたことを参考にしつつも、たりない部分や必要なポイントには創作を施し物語にされたそうです。
僕も、土方歳三と新選組の歴史の顛末は大まかには知っていたのですが、物語の細部を辿ると、歳三の変わりようによって周囲の人物たちとの関係の変化をより感じることができました。
あわせて、映画で歳三役の岡田准一さんがどういった「変化」を演じ、周囲がどう反応していくのかもとても見どころですね!
読んでいて気になった点
歴史小説ならではの独特な言いまわしや役職名などがときどき書かれていたりすると、どうしてもその都度調べて読み進めないと詳しく理解できなかったりします。
こういった言葉に慣れた人はそこまで苦ではないですが、はじめて読み進めるには少しストレスになるかもしれませんね。
また、土方歳三や新選組にフォーカスした内容なので、幕末の時代背景をある程度知っておいた方が、より物語の流れを把握しやすいかもしれません。
まとめ
強いようで弱かったり、真っ直ぐなようでどこか屈折していたり。
『燃えよ剣』は、”鬼の副長”と味方からも恐れられた「土方歳三」の魅力が凝縮された内容となっています!
司馬遼太郎さんが創作した人物である「お雪」の存在が、より歳三の心を映し出してくれるような…。
そういった意味では、歴史小説とはいえヒューマンドラマともいえる内容かもしれません。
気になった方は、ぜひ一度チェックしてみてはいかがでしょうか?
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